2008-11-14

太陽は燃えているか?

今回の話はトホホ科学的にさえ、かなり基礎的なのだけれども、コトバの持つ具体的なイメージ喚起力に力負けする時……という話。

「宇宙には酸素がないのに、どうして太陽は燃えているんですか?」

だって「太陽が燃えている」という言い方はあるし、それにプロミネンスとかフレアは「炎」みたいだし、熱くて、赤くて、まったくもって太陽は「燃えて」いるではないか!──いや、そうではありませんよ。答えは核融合のおおがかりなやつ。酸素と化合する「燃焼」とは違うのでありました。

コトバを真に受けるといえば、そういえば学生さんの中に、スポーツのサプリメントで脂肪燃焼効果があるアミノ酸とやらを飲んで「ああ、燃えてる」「今燃えているのがわかる」という人がいた、という例が挙がった。
「わからないでしょ」
「もし燃えていても、わからないよね」
と科学者たちの意見は一致しているのだが、私からみるとこれなんかもやはり「燃える」というから、そこだけ妙にリアルになってしまうのだろうなと思う。挙げ句の果てに、燃えているのが「わかって」しまうのである。

「燃える」というのは、小さい頃の火災訓練から始まって、花火の導火部がメラメラと燃えていく様子、キャンプで火を起こそうというときなどに新聞紙の赤々と燃える様……といくつもの想い出が生きていて、そういったものはなかなか消火できない。そういった現象の記憶は科学にとっても大事なのだけれども、問題はコトバと強力に結びついてしまっていて、そのことがその先への想像力を妨げてもいるように思うのだ。そこでコトバに「燃えている」と言われてしまうと、自分の記憶のなかの「燃えている」ことになってしまう。

「太陽は燃えているか?」
いいえ、燃えていません。

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