2011-12-29

だからおもしろいもんどんどん作れよ。



みうらじゅん師が「パソコンなんか使っていない」「スティーブ・ジョブスって誰ですか?」と言っていると聞いて、突然思い出したのだが、そういえばアップルは、たくさんのソフトウェアを育てたんですよね。

たとえば昔、マック書道ってソフトがあって、まずは筆を選んで、画面に向かって一筆書いてみたりする。それがかれこれ、MacPlusっていうマシンの時代の話なので、アンチエイリアスのないモノクロ二階調のスクリーンだったはず。

とにかく一筆書き終えると、するすると画面が切り替わって、お茶を点てて一服するシーンへ──という流れだったと記憶する(あんまり覚えていないんだけど)。ま、それだけといえばそれだけのソフトだったことは、きっと間違いないです。

そういうソフトが当時、5,000円ぐらいだったのかなあ。しかしそれでも買ったところを見ると、この「それだけといえばそれだけ」というやつが、案外くせ者なんじゃないか。今配布されているiPhoneの無料アプリのなかにも「光れ!」「測れ!」──でもって、それだけといえばそれだけというのが、結構ありますよね。

老熟したプログラミング開発環境からは、こういうアプリは、当然、出てこない(やっぱりそこそこ念の入ったビジネスソフトみたいのがぴったり)。アップルがiPhoneのために採用したオブジェクティブCというOSは、これまでのノウハウが活かせて手練れのプログラマーが優位に立てるようなものじゃない。ちょっとセンスのある人がやってみたらできちゃった、みたいな。むしろ、わざわざそういう可能性のあるOSを選んだんじゃないか、というふうにも考えられます。

というわけで『週刊リョーシカ!』のiPhoneApp試作品がようやっと上がってきたのだが、こないだ父がやってきてそれを見て
「iPhoneのOSはオブジェクティブCというのだけれども」
 と言うから、
「うーん、もちろん知っていますけれども」
 と言うと
「昔、それ売りに行ったことがある」
 と言うのだった。

オブジェクティブCは少なくともタッチスクリーンであって、父は「オブジェクト指向」黎明期のUNIXプログラマといった世代だから、そんな昔のものがほんとに同じオブジェクティブCなんだろうか? けど、ひょっとすると、その頃すでにオブジェクト指向のいろんなアイデアが出ていて……などと想像をたくましくして、いちおう開発環境の説明などすると、父は「そうそう」などとあいづちを打つので、困ったものである。それほんとにオブジェクティブCなの?……謎すぎです。

さて、私がマック書道をどうってことなく楽しんでいた頃、アプリケーション・ソフトというのは文字通りのパッケージ商品だった。なぜあんなにも不効率なまでにカタカタの(でかい箱の中で中身がカタカタ鳴るような)パッケージが標準だったのか? と思うけれども、パッケージとダウンロードは、とても対照的だ。

最近とみに感じられるのだけれども、いったい人は中身を買っているのか、それとも箱を買っているのだろうか? パッケージというのは箱(だけ)、ダウンロードというのは中身(だけ)。箱と中身は、コンテナとコンテンツとも言いますね。たとえば「自炊」がいけないという意見がありますが、これはどう考えてもパッケージ援護だから、箱と中身を分けて考えるならば、本の中身、あるいはコンテンツについては語っていないということになると思います。

「メディアはメッセージである」というマクルーハンの有名な言葉──マクルーハンはこのほか「メディアはマッサージである」という、さらにすごい言葉も記しているのでありますが──を思い起こすまでもなく「運ぶもの」は、重要です。「運ぶもの」がウェブになったとき、iTuneStoreが現れて、ビートルズが出て、Appがたくさん出てきました。

iPhoneAppというコンテンツに対応するコンテナは、ウェブ上のiTuneStoreというしくみだとして、ではダウンロードするひとつひとつのアプリに対応するパッケージは何かと考えると、それはきっと……アイコンですよね。実はiPhoneAppのごく初期に、このアイコンのデザインをフォトショップで作ろう思っていろいろググったところ、アップルが特許をとっていてけしからんと批判されている記事によく遭遇したのです。なぜ特許なのか? 何でだろう?という感じでした。そこで、少なくともiPhoneアプリのアイコンデザインは、アップルがすごく力を入れていることのひとつに違いない、と思って、そのことを覚えていたんです。

こうなると、そういえば、というのがいくつかあって、たとえば最初は、iTuneStoreの売上の3割もとるなんてアップルはひどい、と思ったのは私だけではなかっただろうし、実際グーグルはすぐに1割というアナウンスをして、とてもリーズナブルに見えたりした。

あるいはまた、iTuneStoreはコンテンツをコントロールしているということでも批判され……実際デベロッパー登録の審査には時間がかかることも確か……プラットフォーム育成が慎重だなあ、アップルはiTuneStoreをどういうお店にしたいんだろうか? といろいろ憶測されたのだけれども、じゃあその真意って何なんだろう? おそらくiTuneStoreにはさほど急ぐ必要はないってだけなんじゃないか、ぐらいに今は思うのだけれど。

「コンテナ」の部分は全部やってくれて、すてきなアイコンメソッドも作って、だからおもしろいもんどんどん作れよ──きちんとしたパッケージを作る真意とは、アップルが本気でソフトのクリエータたちが雨後の竹の子のように生えて、しかも彼らにそれなりのリターンが生じて、プラットフォームが活気づくことである──素直に考えると、というか、クリエイティビティに根ざして考えれば、狙いはそこにしかないように思われます。(たとえば私たちは「デファクトスタンダードをとるには?」といった手順で考えがちなわけですが(笑))


なんてつらつらと考え始めたのも、そもそもはその、みうらじゅん師の「スティーブ・ジョブスって誰ですか?」に、誘い出されてしまっただけなのだが。

というわけでしょうがない、正月休みにでも読むか。

スティーブ・ジョブズ I・IIセット
クリエーター情報なし
講談社


いや、お正月はやっぱりこれでしょ。伝統の一戦!?「カルタ」のご本家ゆるキャラばん。

みうらじゅんの全国ゆるキャラ(R)かるた
クリエーター情報なし
幻冬舎


ゆるきゃらのルーツ・ブック!? みうら師、渾身のコレクション。
(注)個人的には「二穴おやじ」が泣けます。

いやげ物 (ちくま文庫)
クリエーター情報なし
筑摩書房



2011-12-13

ebook時代の「編集」

現代のライティングとはプログラムを書くことだと言ったのは、Douglas Rushkoffだが(だけじゃないかもしれないけど)、その段でいくと、編集っていうのは、HTML5をepub3にしたり、そこに動画入れたり、課金のしくみを入れたり、アップデートのパスワードを入れたりすることかもね。