2009-02-10

『ロボットのおへそ』8 道具というパートナー

『ロボットのおへそ(稲邑哲也・瀬名秀明・池谷瑠絵著、丸善2009)』をご紹介するシリーズもついに第8回目になりました。さて今回は、本からは離れて、まずはこんなロボットから。

お掃除ロボットのiRobot社の新製品、雨どい掃除ロボット「iRobot Looj」のデモ
iRobot Looj - Inventor discusses gutter cleaning robot

お掃除ロボットのルンバは、最近すっかり有名になって、類似商品もいろいろと出回ってきました。それに比べるとこちらの新製品の方は、私たちの日常生活では、雨どい掃除なんて、それほど需要のあるもののようには思われないのですが……ところがどうやらアメリカでは事情が違うんですねえ。

この新製品「Looj(ルージ?)」のクリップを再生すると、Youtubeでは、右欄に関係のあるビデオクリップが並びますが、そこにこのルージのような方法ではなく、かなり「アナログな新機軸」、すなわち巨大なトングのような道具とか、チューブを差し込んでバンバン葉っぱを飛ばすマシンとかいったものが、ずらりとリストされるんです。おそらく自作したか、改造したか、なんらか工夫して実演し、ビデオに撮ってアップしたのでしょう。Youtubeからうかがい知る限りでは、いやあ、この雨どい掃除、実はみんな苦労してる作業なんだ、と思われるわけなんですね。ひとと道具(ツール)の関係について、とても典型的に、考えさせられたりします。

iRobot Looj 関連映像としても、少し前まではデモのビデオがほとんどだったのですが、最近はこれに加え、実際にこのルージを購入したユーザが、自宅の雨どいで走らせてみた! という映像もたくさん寄せられていて、この「雨どいジャンル」、なかなか盛り上がっています。

このように、これまでの流れを変えるような新しいツールが登場すると、単に買う?買わない?というだけにとどまらず、いろんな角度から賛否両論がわき起こり、そんな中から次第にその実力が評価されていき……というふうになりますね。

そこでそろそろテーマの「道具(ツール)」へ移りたいのですが、この『ロボットのおへそ』をつくる初期の頃にイナムラ先生が、ロボットについて「ひとに一番近い究極のツール」と言われたのが、実はたいへん印象深かったんです。その「究極の」とは何か……という議論はまたいろいろだと思いますがそれはちょっとよけておいて、というのも、私が驚いたのはごく初歩的なことで、つまり「ロボットがツールである」というのが、私にとっては決して当たり前じゃなかったわけなんです。

一般的に言ってひとがツールを手にすることによって、それが画期的であればあるほど、その作業なり研究なりひとが取り組んでいることが、ぐんと発達します。「火」などはちょっと大昔すぎるとすると……たとえば全文を「記憶」でき「検索」できることで、言語学とかシェイクスピア研究といったものもすごく変わったのではないでしょうか。……さらに未来へ行けば、リョーシ猫お得意の(!?)量子コンピュータなんかは「今世界中にあるコンピュータ全部を集めたぐらいのパワー」と言われていますから、いろんなものがドラスティックに変わるのかもしれません。

しかしここで起こっている「変化」って、何なんでしょう?

変化の中身はいろいろでしょうが、それまで人がやっていたのをコンピュータやロボットに任せられるようになるいうことは、人がやらなくてもよくなった部分がでてきたのに違いありません。外部化したのだから、人がもともと内に持っていたその能力は使われにくくなるわけで、すると当然失われるものも出てくるだろう、と考えられます。たとえば、ワープロを使うことで手で漢字が書けなくなる、思い出せなくなるなんていうのが、それですよね。しかしこれがまずいことだと言うと、たとえば私が個人的によく思うのは東西南北の方向感覚なんかは、人によっては退化したというか必要がなくなって能力がなくなったんじゃないか……とか、ひとにも「しっぽ」があったのに要らなくなったからなくなった、という話があります。仮にそうだとすると、「しっぽ」がなくなったのはまずいかどうかというと、どうもあんまりまずい気はしない。

すると、新しいツールによる「変化」をどう受け止めるべきなのか?

というのは案外難しい問題で、言ってみれば対処方法というものがあまり開発されていないように思われます。ただ私たちユーザはいずれにしてもそのツールを使うだけなので、それだからわからないということがあるかもしれず、一方、ツールを作っている人にはまた違った視座から、物事が見えているかもしれません。

『ロボットのおへそ』では、それほど頻繁にツールの話が展開されているわけではありません。しかし、ロボット博士のイナムラ先生の考える「ひとにとってツールとはどういうものか」という視点からも、ぜひページをめくってみていただければと思います。

[ ロボットのおへそ SPECIAL ]
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