2009-02-13

『ロボットのおへそ』10 ロボットというリアリティ


『ロボットのおへそ(稲邑哲也・瀬名秀明・池谷瑠絵著、丸善2009)』をご紹介する、当「科学と広告のブログ」の連載も、ついに今回がひとまず最終回。たいしたことは書けないけれども、本をご紹介して、その中身についてちょっと想像してもらえたら、という趣旨で、共著者、ご関係者のみなさまにもお知らせして始めた次第──ま、実際その通りでたいしたことないことばかりなのではありますが、最終回ということでぜひおつきあいいただければと思います。

私自身、この本づくりの前後で、一番変わったことは何かというと、ロボットの見方、これに尽きると思います。ロボットの見方と言っても、ひとつしかないわけではないし、この本を読めばすべてがわかる!というわけでもありません。むしろ、ロボットというものがいかに生まれてきたのか、を知ることもおもしろければ、純粋に工学的なおもしろさや、情報処理的な手腕といったものも肝心なところだし、ロボットを理解するのに脳科学が参考になるかと思えば、進化論がヒントを与えてくれる……こういったことがすべて「ロボットの見方」にかかわってくるのです。あえて言えばロボットとは──知的複合体のようなものなのではないでしょうか。

さて。で、これをどう読み解くか?

そこで、まずは第一の有効な手がかりとして、対談で瀬名氏が紹介されていることのなかにロボットの見方があります。次に稲邑氏の考え、それを実現するものとしてのイナムラ・ロボットがあります。

ところで──とっても横道に逸れるようですが──、ロボットの本を読んだり話を聞いたりしているとき、私たちの頭の中には、別のロボットが出てきて、そのイメージが一人歩きしている……ということはありませんか? それはアトムだったり、お茶を運ぶからくり人形だったり、私のように「オズの魔法使い」だったり、もちろんマジンガーZや鉄人28号かもしれません。そのように私たちがすでに持っているロボットのイメージが、この話といったいどう関係してくるのだろう? 往々にしてそんなふうに考えが進んでいきます。しかし──とっても現実的な観点から言うと──、このようなイメージを、現実のロボットにうまく重ね合わせるのはかなり難しいです。

それよりも現実のロボットから「ロボットの見方」の手がかりを得て、その双眼鏡を携えてロボットのいる作品世界を逍遙するほうが、はるかに楽しめるように思います。(たとえばマンガ「ドラえもん」を読んで、この猫型ロボットが「不思議にもできること」と「意外にもできないこと」の境目はどこか?……というようなこともとても奥深く感じられます。)一方、より現実的に身近なところでは、たとえば家事や介護などの作業を受け持ってくれるようなロボットの存在が、私の実感としてはかなり“あっという間に”、リアリティを増してきています。私たちの暮らしにどんなロボットが必要とされているのかによって、同時に、私たちの社会が照らし出されていくという側面も見逃せないでしょう。

そして、ロボット研究のゆくえばかりではありません。

実は、私、ロボットのお話を聞いているときにこう聞いてしまったことがあるのです。
「イナムラ先生、もしかして、ご自分のことをロボットだと思っていませんか?」
「!?」

このばかげた質問がどうして出てきたのかというと、なんとかおしまいまでに、言い訳を考えたいわけですが──ひとつにはまず、この本に関わって以来、私は「もし○○がロボットだったら」と考える面白さを知ってしまったのです。

何かを「ロボット」に見立てると面白い。──どういうことかというと、たとえばオズのブリキの木こり(the Tin Woodman)は、わざとロボットのように(もう一方のかかしは、わざと藁でできているように)動いたり踊ったりするのが、ミュージカル映画のひとつの見どころになっていますよね。「ああ、あれはロボットだからああいうふうに動くのだよ」というのが、どうも人はおもしろいのです。

これと同じに、何かがロボットに見える、何かをロボットと見なすということは、究極的には「そうなるように作ったからそうなっている」ということであり、人間がどうしたいと思ったか、あるいはどういうものだと考えるかを、見ること・見せてもらうことに、どうも他ならないようである。そうでないと、ブリキの木こりは「わざと」ロボットのようだから面白い、というところに説明がつかないように思うのです。

私たちの脳はいったいどうなっているのだろう、という自然のしくみを知ろうというのが脳科学ならば、あくまで図式的に言えば、ロボットは、人間としてはどうしたいのか、が知りたい、そんな探求であるようにも思えてきます。──ただ、いつも限りなくひとに憧れてはいるのですが。

さて、イナムラ先生は、日常生活で何かを考えるときにふと、ロボットだったらこうするだろうからこうしておいたほうがいいよな、とかいうふうに、きっと時々お考えになるのです。──それがなんだか、ロボットに憧れているようにも見えるのですが。

[ ロボットのおへそ SPECIAL ]
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