2010-10-24

「シンポジウム:人とアンドロイド」

石黒浩大阪大学教授が代表者の科研費研究「遠隔操作アンドロイドによる存在感の研究」プロジェクトの成果発表会「シンポジウム:人とアンドロイド」へ行ってきました。



私は、前半の瀬名秀明氏の講演までしか、都合で聴講できず、テレノイドR1の実演が見られなかった(残念!)のですが、主に石黒先生のご講演に関連して、池谷の感想を書きます。ところで、石黒先生・大阪大学のイベント@東京を見学するのはこれで2回目なのですが、どちらもとてもイベントとしての仕込みがすばらしく、今回もその切れ味と細心さに圧倒されました。


さて。まずはブルース・ウィリスの映画『サロゲート』がすっごく面白いというお話。『ロボットは涙を流すか』以来お会いしていないが、その後、石黒先生はいったいどれだけ未来へ行ってしまったか、と思っていたのだが、おお、まだ『サロゲート』を面白いと思われているのか! というわけで、ちょっとホッとする心地がした。

というのは、しかし、半分冗談で、そのもう半分というのは『ロボットは涙を流すか』を共著させていただいた時は、『サロゲート』日本公開のタイミングで、とても鮮度のいい時期だったので、どうしてもそこにフォーカスすることになったわけだが、もっとより本質的にはこの映画が何か「ロボット考古学」の本質を射抜いており、石黒先生はそれが面白いわけなのだろうということだ。

ちなみに「ロボット考古学」というのは、『ロボットは涙を流すか』に出てくる語で、これは──簡単にいってしまうと──もともとあるロボット史を石黒先生ならではの現代の視点からまとめたものだ。その現代の視点というのは、つまり「アンドロイドができてしまってみれば」と言えばいいだろうか。実際、この「ロボット考古学」なるものの内容は、『アンドロイド・サイエンス』のまえがきとして最初に書かれたのである。

石黒先生は『サロゲート』にどんな未来(の人間)を見ているのか、をさらに深く掘り下げていく「没入型」も、ジェットコースターのようで極めて面白いのですが、ちょっと離れて眺めてみると、メディアアートとして、数多生産されるさまざまなガジェットと比べても、巨大なアイデアだということがよくわかる。これというのは、まずこのイベントでは2つのロボット──ひとつは女性のアンドロイド、もう一つが目を中心にすーっとぼかしたようなミニマムタイプ「テレノイドR1」──が成果発表されたのだが、特に後者のミニマムである。



ほんとにこんなに面白いものはない。そう、──たとえばアルス・エレクトロニカなどで──世界の多くのアーティストがDr.石黒ファンになってしまうのがよくわかる。これは、アーティストの想像力を強烈にブーストする。アートの火種なのだ。こういっては余計ですが、『サロゲート』からエッセンスを掬ってロボットに活かすことができるのは石黒先生だけだが、ミニマムからインスピレーションを受けてクリエイティブな仕事をする人はたくさん生まれるだろう。こういった光景、それを目撃できる機会は貴重なことだと思った。

さて、これらの成果はもちろんその先に、産業への応用が目指(あるいは期待)されているようであった。それはたっぷりとリアリティのある話であると同時に、なぜ実用化なのか、もう一つ大きな理由となるのは、これが生活に根ざしたアートだからだろう。このことによって私たちは比較的簡単に、あ、石黒先生自身が、生活に根ざしたアーティストなのか、と読み解くことができるのだった。

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